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東京地方裁判所 昭和27年(ワ)4327号 判決 1954年3月26日

横浜市保土ケ谷霞台二百六十番地

原告

間野徳十郎

右訴訟代理人辯護士

大橋光雄

栗田吉雄

東京都品川区大井鮫洲町二百十九番地

被告

日本農工殖産株式会社

右代表者清算人

高橋武美

右訴訟代理人辯護士

松永芳市

山田徳治

柳原武男

右当事者間の昭和二十七年(ワ)第四、三二七号株主総会不存在確認登記抹消並びに株式名義書換請求事件について、当裁判所は次の通り判決する。

主文

1昭和二十六年六月二十九日東京都品川区大井鮫洲町二百十九番地日本農工株式会社品川事務所において開催の被告会社臨時株主総会における決算報告書並びに清算結了報告を承認する旨の決議は存在しないことを確認する。

2被告は原告に対し、別紙目録記載の株式につき、原告名義に名義書換手続をせよ。

3訴訟費用は被告負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、その請求原因として、

「一、被告会社は、東京都品川区に本店を有し、金銀銅鉛その他の鉱物の採堀及び販売、ゴム製品の製造販売並びにこれに関聯する一切の附帯事業を営むことを目的とする株式会社で、昭和二十三年十二月一日企業再建整備法による決定整備計画に基き第二会社(日本農工株式会社)を設立したるにより解散し、清算中の会社である。

二、原告は、訴外閉鎖機関満洲投資証券株式会社の有する被告会社の株式三万二千株(株券番号い丁五一号乃至第一九一号、い丁第二七五号乃至第二八四号、い丁第三三五号乃至第三三四号、い丁第四四五号乃至第五四四号、い丁第五九二号乃至第五九四号、い丁第六四五号乃至第七〇〇号、満洲投資証券株式会社特殊清算人閉鎖機関整理委員会委員長小林正一郎名義のもの)を、同会社の特殊清算人閉鎖機関整理委員会から証券処理協議会を通じ、競売により、昭和二十六年四月二十三日落札取得し、右閉鎖機関整理委員会委員長岩坪友至の株式名義書換のため白紙委任状の添附をうけて右株券の引渡をうけた。

三、原告は右株券を白紙委任状と共に被告会社に呈示して、昭和二十六年四月二十四日から同年五月七日まで毎日、並びに同年九月六日、同月十七日の両度夫々右株券により表彰せられる株式につき原告名義に書換えることを請求したが、被告会社はこれを拒む理由がないのにこれに応じない。

四、被告会社は、昭和二十六年六月二十九日、東京都品川区大井鮫洲町二百十九番地日本農工株式会社品川事務所において、臨時株主総会を開催し、決算報告書並びに清算結了報告につき承認決議があつたと称して、昭和二十六年十一月二日東京法務局品川出張所において、被告会社の清算結了の登記をした。然しながら右総会の決議は、何等の召集手続をすることなく、株主たる清算人高橋武美一人出席してなされたものであるから、株主総会は成立することなく、従つて右総会における決議は存在しないものである」と述べ

被告主張の答弁事実五の(1)及び(3)については

被告会社の定款には被告主張の如き株式譲渡に関する制限の規定のあることは認めるが

(1)終戦後の財閥解体に関する諸法令によつて規定されたところは民法商法の体系以上のものである。本件についてみるに、閉鎖機関整理委員会が、特殊清算人として、満洲投資証券株式会社の有する本件株式を証券処理協議会なる公的機関に委任し競売により処分されたものである。斯る処分がなされるとき、その譲渡を制限する民法、商法の規定は効力を停止すべきであり、民法商法が効力を有することを前提とする定款の規定も亦効力を停止すべきことはいうまでもない。従つて被告会社の定款に被告主張の如き譲渡制限の規定があつても、原告の本件株式の取得については、右の定款の規定は効力なく、従つて取締役会の承諾は必要のないものである。

(2)商法において経営段階において効力を認められる規定も、清算段階においては効力を停止すべき例がすくなくない。凡そある規定の性質が経営段階のみを目指しているか清算段階をも掩つているかは、それぞれの規定に即して考察すべきであるが、会社の持分乃至株式の譲渡の制限の如きは、経営段階においてのみ妥当し、清算段階においては妥当しない。旧商法第二百四条第一項但書の株式譲渡の制限規定は清算段階においては適用されない規定である。従つて「株式譲渡には取締役会の承認を要する」という定款の規定の如きは前記法条に根拠を置く規定であるから清算段階においては、効力なく、従つて本件株式譲渡には取締役会の承認は不要である。

(3)新商法施行後は、株式譲渡の絶対性が認められ、株式譲渡の制限に関する定款の規定は効力を失つたものである。このことは旧法当時株式の譲渡があつた場合も新法施行後は同様に解すべきである。すなわち新商法施行法第十一条は、本件の如き場合には適用ないものである。

(4)原告は本件株式の名義書換請求につき名義書換請求書を提出してしたものであるが、元来名義書換請求手続に関する定款の定は、これを以て書換手続を要式行為としたものでなく、従つて定款所定の方式によらなければ、右請求が無効であるというものではない。

」と述べ

被告主張の答弁事実五の(2)に対して「

特別経理会社の株式の譲渡には会社の承認を要すること、会社経理応急処置法第二十三条の規定するところであるが、企業再建整備法第三十八条により、特別経理株式会社につき、決定整備計画に基き第二会社を設立し、設立の登記をしたときは、その日から、前記第二十三条の適用を排除される。然るに本件被告会社については前述の通り昭和二十三年十一月二日第二会社の設立登記があつたことは被告において争わないのであるから、被告の右主張は右法条に照し理由なく、その後の本件株式の譲渡については、被告会社の承認は要しないものである。」

被告主張の答弁事実六に対して、「

被告会社の株主は、藤倉電線株式会社四万四千七百株、閉鎖機関満洲投資証券株式会社三万二千株高橋武美三千三百株の三人であつた。春日慎一、今村正治が株主であることは否認する。仮りに被告主張の株主高橋武美同春日慎一同今村正治に対し、招集通知があつたとしても、藤倉電線株式会社閉鎖機関満洲投資証券株式会社に対しては、被告は故意に招集通知をしなかつたものである。両会社の持株数は合計七万六千株となり総株式数の九十六パーセントを占めるものであり斯の如き場合は招集通知の手続を欠いたというべきである。

仍て原告は、被告に対して、本件株主総会における決議の存在しないことの確認並びに本件株式につき名義書換手続を求めるため、本訴請求に及んだ

」と述べ

立証として、甲第一乃至第三号証の各一、二、第四号証、第五号証の一、二、第六号証、第七号証一、二、第八号証、第九号証の一乃至三二〇、第十号証の一乃至一〇、第十一号証の一乃至四、第十二号証、第十三号証の一乃至三、第十四、十五号証第十六号証の一乃至三、第十七、十八号証の各一、二第十九号証第二十、二十一号証の各一乃至三、を提出し、証人小野広同麻生剛同兵藤嘉門同武井徳治同鈴木源吉同橋本長正の各証言並びに原告本人尋問(第一、二回)の結果を採用し、「乙第五乃至第七号証の成立はしらない。その余の乙号証の成立は認める」

と述べ

被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として、「

一、請求原因一、の事実中被告会社が清算中であるということは否認するがその余の事実は認める。

二、請求原因二の事実は不知である。

三、請求原因三の事実中、原因が昭和二十六年四月頃、原告主張の株式につき株券を呈示することなく、口頭で、原告名義に書換えることを請求し、その後一週間位して株券(白紙委任状はついていなかつた)を持参して名義書換の請求をしたので被告会社は調査のため一旦これを預つたが約一週間後にこれを原告に返還した。その後同年九月十七日にも、原告は、被告会社に対し、株券のみを呈示して名義書換を請求したが被告会社において、この請求に応じなかつたという範囲において認め、その余の主張事実は争う。

四、請求原因四の事実については、被告会社は原告主張日時場所において適法な招集手続を踏んで株主総会を開催し、原告主張の如き決議をして、原告主張日時に、主張の如き登記をしたものである。

五、被告会社が原告の名義書換請求を拒んだ理由は、次の通りである。

(1)被告会社の定款第十二条に、「本社の株式は、取締役会承諾なくして之を譲渡することを得ず」と定められているので、取締役会は原告の本件株式買受につき調査した結果、清算事務も結了に近付いていたので、無用の紛争を避けるためこれを承認しないことにしたから、名義書換の請求を拒否したのである。

(2)被告会社は、特別経理会社であるから、会社経理応急措置法第二十三条の適用があり、株式の譲渡については会社の承認を要し、会社が承認するには、特別管理人の同意を要することになつていてこの手続を踏まぬ場合は、株式の譲渡は会社に対抗できない。原告の本件株式の譲受については斯る手続を踏んでいないので、被告会社は、原告の名義書換請求を拒んだのである。

(3)原告は、昭和二十六年四月頃名義書換の請求をしたとき、定款所定の名義書換の請求書類を提出しなかつた。従つて書換請求に応じないのは当然であるし、原告の主張している白紙委任状を添付したのみでは、会社としては、これを株主として認める必要はなく、白紙委任状が補充され名義書換の書類が提出されて、始めて、会社はそれに応ずる義務があるのである。斯る手続をふまない原告の名義書換請求に応じないのは当然である。

六、被告会社の株主は藤倉電線株式会社四万四千七百株閉鎖機関満洲投資証券株式会社三万二千株、高橋武美二千三百株、春日慎一五百株今村正治五百株であつて、被告会社は本件総会の招集状を右株主等に発し、総会当日、藤倉電線株式会社及び閉鎖機関満洲投資証券株式会社は出席せず、高橋武美、春日慎一、今村正治の三名が出席し、出席株式総数三千三百株で適法に総会が成立し、本件決議がなされたものである。

」と述べ

「原告主張の旧商法第二百四条第一項但書の規定の解釈につき、清算中の会社でも商法第四百六条の規定により会社継続の決議をすることができるから同法条が清算段階に適用がないものということはできない。

又仮りに原告主張の如く原告に名義書換請求権ありとするも、名義書換請求訴訟は、遅くとも清算結了登記前に提起すべきであつて、右登記がなされた後は、斯る請求権は消滅する。

以上いずれよりするも原告の請求は失当である。

」と述べ

立証として、乙第一乃至第三号証の各一乃至三、第四乃至第七号証を提出し、証人高橋知良、同追泉愛子、同今村正治同春日慎一の各証言並びに被告会社代表者本人尋問の結果を援用し、「甲第三号証の一、二第四号証、第五号証の一、二第七号証の一、二第九号証の一乃至三二〇第十号証の一乃至一〇第十二号証第十三号証の一乃至三第十六号証の一乃至三、第十八号証の一、二第二十、二十一号証の各一乃至三の成立はいずれも認める。甲第三号証の一、二について原本の存在を認める、その余の甲号証の各成立は知らない。甲第一号証の一については郵便局作成部分、第六並びに第八号証については公証人作成部分はいづれも成立を認める」と述べた。

理由

当事者間に争のない郵便であること、その形体、並びに証人橋本長正同武井徳治の各証言を綜合して、当裁判所が真正に成立したものと認める甲第一号証の一、二及びその成立に争のない甲第九号証の一乃至三二〇第十号証の一乃至十並びに右証人等の証言を綜合すると、原告は、昭和二十六年四月二十三日、訴外閉鎖機関満洲投資証券株式会社の有する被告会社の株式三万二千株(株券番号い丁第五一号乃至第一九一号、い丁第二七五号乃至第二八四号、い丁第三三五号乃至第三四四号、い丁四四五号乃至第五四四号、い丁第五九二号乃至五九四号、い丁第六四五号乃至第七〇〇号、満洲投資株式会社特殊清算人閉鎖機関整理委員会委員長小林正一郎名義のもの)を、同会社の特殊清算人閉鎖機関整理委員会から、証券処理調整協議会を通じ落札により取得し、右閉鎖機関整理委員会委員長岩坪友至の作成に係る右株式の名義書換のための白紙委任状十通(三千株のもの九通五千株のもの一通)と共に右株券の引渡をうけて現に所持している事実を認めることができる。

原告が本件株式取得後間もなく昭和二十六年四月中に、被告会社に対し、右株式につき原告名義に書換を請求し、被告会社においてこの請求に応じなかつたことは当事者間に争のないところである。右拒否が正当なりや否につき当事者間に争があるのでこの点につき判断する。

被告会社の定款第十二条に「本会社の株式は、取締役会の承諾なくして、之を譲渡することを得ず」と規定されていること、並びに前認定の原告の本件株式落札当時被告会社が清算中であつたことは当事者間に争がない、清算手続中における右定款の効力について判断すると、改正前の商法に於ける斯る株式譲渡制限の規定の実質的存在理由は、譲受人たる新株主の介入により株主の構成に変動を生じ、よつて従来の株主構成の下における会社経営権の維持に不測の動揺を来す惧れの生ずることを防止することにあり、従つて会社が一度解散し清算手続に入るときは、最早会社経営の問題を離れ、単に清算のための事業の後始末をなし、残余財産の分配をなすべきの問題が残るのみであるから、右規定の実質的存在理由は清算手続中は失われ、株式の譲渡制限の効力を存続する必要もなく、却つて、株式本来の性質を害する結果となるので、改正前の商法の下においては、清算手続中は右規定の効力を停止するものと解するを相当とする、けだし、

(一)株式会社の特質の一である株主有限責任の原則は、株式の譲渡性を高度に認めることによつて一層徹底され、近時における商法の変遷を見ると、昭和十三年以降数次の改正により株券の裏書による譲渡方法株金全額の払込制、譲渡証書による株式譲渡方法及び株式譲渡制限の禁止等が認められるとともに他面株式譲受人のいわゆる善意取得の保護が強化されて遂次譲渡の簡易化、株式譲受人の責任の明確化が企てられ遂に完全な株式譲渡の自由が確立され譲渡の自由という株式本来の性質が漸次明確にされて来たことを知ることができる。このように歴史的に見るときは少くとも昭和二十五年法律第百十七号による改正前の商法における株式譲渡制限の規定は唯会社経営権の擁護のために設けられた制限的規定であるとするのが至当である。

(二)右の結論は何人に利害の影響を与えるであろうか、株式の譲受人は何等損失を受けることなく寧ろ利便を得るし、会社は株主の変動による繁さを受けることがあり得るが、譲渡制限に伴う調査、承認等の事務と比較し特に損失を蒙るという程のものではなく、清算人は、予期しない株主の介入があつても法定清算の下において格別の支障を蒙る筈のものではない。株式譲渡人は最早経営に対する興味を失つた会社への投下資本の回収を容易に得られる。従つて右の結論によつて特に弊害を来すと思われる要素はない。

(三)清算手続中に会社継続の決議をなし得ることは被告主張のとおりであるか、既に会社経営の意思を抛棄した株主に対し再び同一人的構成の下における斯る意思を保護する必要もなく却つて新な人的構成の下に会社継続の決議をなし易くすることができるであろう。

(四)株式は清算により残余財産の分配請求権を化体するので、その株式の譲渡制限については債権譲渡の制限又は禁止の特約に関する民法第四百六十六条第二項の法理の類推適用を受けないか、という問題が考慮され得るであろうか個人間の債権譲渡に関する特約と団体法的関係にある株式会社の定款とを同視し得ないし、株式譲渡制限の規定が前記のように限られた目的の下に設けられているものと解するときは右の類推適用は許されない。

又被告会社は特別経理会社であるからその株式の譲渡については、被告会社の承認を要するとの被告の主張は、被告会社について決定整備計画に基き昭和二十三年十一月二日第二会社設立登記があつたことを被告において認めている本件については企業再建整備法第三十八条の規定に徴し、その主張自体理由がないことは明かである。

被告は、原告が本件株式の名義書換の請求につき定款所定の方式によらないからこれを拒むのは当然であると主張するが、前記甲第九号証の一乃至三二〇、第十号証の一乃至十成立に争のない甲第十二号証並びに証人麻生剛の証言並びに証人春日慎一の証言(後記措信しない部分を除く)、原告本人尋問(第一、二回)の結果を綜合すると、原告は、昭和二十六年四月中被告会社に対し、白紙委任状を添附して本件株券を呈示して原告名義に書換手続を求めた事実を認めることができる。右認定に反する証人春日慎一の証言は措信し難く他に右認定を覆すに足る証拠はない。被告は定款所定の書式を踏んで名義書換を請求しなければ、書換を拒絶できると主張するが、成程成立に争のない乙第四号証によれば、被告会社の定款第十三条に「名義書換をなさんとするときは本会社所定の書式により当事者連印の書面を作成し之に株券及び本会社に於て必要と認むる証拠書換を添え本会社に其の請求をなすべし云々」と規定されていることを認め得るが、斯る規定により名義書換請求手続が要式行為となつたわけでなく、被告会社が名義書換の請求を受けたときは、むしろ請求者に対し、その旨説明し協力することこそ必要であれ、特段の主張立証もなく、名義を書換を請求している者に対し、斯る様式を踏まぬというだけで、書換手続拒否する理由として主張することは許されないと解する。従つて斯る書式を踏まれたか否を判断するまでもなく被告の右主張は失当である。次ぎに白紙委任状に補充することなく名義書換を請求したことは、前記甲第十号証の一乃至十の記載により明かに認め得るところであるが白紙委任状附記名株式の譲渡の認められていることは顕著な事実であり、これにより株式の取得がなされる以上株主として名義書換を請求するにつき、ことさらに白紙委任状に氏名を補充しなければならいという理由はない。従つて被告会社は以上の理由を以て、昭和二十六年四月中前記白紙委任状及び株券を呈示してなされた原告の本件株式の名義書換請求に対し、これを拒絶する正当な理由とはなし得ないものと認めるべきである。

次に昭和二十六年六月二十九日の臨時株主総会における決算報告書並に清算結

報告につき決議があつたか否につき判断する。原告は右総会は招集手続を欠いているので総会として成立するに由なく従つて決議は存在しないといい、被告は適法に招集手続をしたと主張している。

原告は右総会に招集を受くべき正当な株主であつたことは前認定の事実により明であるにかかわらずこれに同総会の招集通知がなされなかつたことは被告の主張自体で明確であり、成立の争のない甲第二十号証の一乃至三、第二十一号証の一乃至三に証人兵藤嘉門同武井徳治同橋本長正の各証言を綜合すると、被告が当時被告会社の株主であつたと主張する藤倉電線株式会社並びに閉鎖機関満洲投資証券株式会社に対し右総会に対する招集通知が到着していない事実を認め得られ、この事実と右各証拠に徴すれば右両会社並びに高橋武美、春日慎一、今村正治に対し右総会招集の通知が発送された趣旨を窺わしめる乙第七号証の記載のみでは未だ同招集通知を発したものと認めることはできず又この点に関する証人高橋良知、同追泉愛子、同今村正治、同春日慎一の各証言並びに被告会社代表者本人尋問の結果はたやすく措信し難く、その他に被告主張の如く適法に総会の招集通知を発したと認めるに足る証拠はない。

然らば、被告主張の如く株主高橋武美同春日慎一同今村正治が出席して会合を開いてもこれを以て総会と言うことを得ず従つてその場に於て決算報告書並びに清算結了報告を承認する旨決議をしても、これを以て総会の決議ということはできない。以上の理由により本件総会の決議は存在しないものというべきである。

被告会社につき昭和二十六年十一月二日清算結了の登記がなされていることは当事者間に争のないところであるが、会社の清算結了には現務の終了その他の清算事務を終了した後に決算報告書について株主総会の承認を得ることを要し、これのない以前に清算結了の登記をしてもこれを以て会社を消滅せしむるものではない。前認定の通り原告は昭和二十六年四月以降株式の名義書換を請求しており名義書換をなすことは清算人の職務の一である現務の終了に属するものであるにかかわらずこれを終了していないし前記決算報告書の承認を得たとする株主総会の決議は存在しないものであつて、その後に適法にこれらの終了したことの主張立証のない本件の場合においてはたとえ清算結了の登記があつても、被告会社は現に清算手続中にあるものといわなければならない。

故に清算結了の登記後は株式名義の書換請求はできないという被告の主張も又それ自体理由がない。

仍て原告の本訴請求は、いづれも正当であるからこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

東京地方裁判所民事第八部

裁判長裁判官 畔上英治

裁判官 岡田辰雄

裁判官 西村法

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